GX(グリーントランスフォーメーション)の概要と取組事例を解説
GX(グリーントランスフォーメーション)は2023年のITトレンドワードとして注目されています。 GXの一環であるペーパーレス化やIT機器の省力化はDXを推進する上でも重要なテーマです。そのため、経済産業省をはじめ国を挙げた取り組みが行われています。 この記事では、GXの概要と政府の取り組み、GXに取り組む企業が得られるメリットについて解説します。IT業界の最新動向をキャッチアップしたい方は、最後まで読んでみてください。GXとは GXとは、温室効果ガスを排出する化石燃料を極力使用せず、太陽光発電などのクリーンエネルギーを活用して、社会構造の変革を目指す取り組みです。 特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所の調査によると、国内の年間発電量に占める化石燃料の割合は70.2%で、エネルギーの大半を化石燃料に頼っています。化石燃料は消費するときに地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出するため、地球環境に負荷をかけないクリーンエネルギーが注目されています。 従来の環境活動との違いは、単なる環境にやさしい活動の推進ではなく、クリーンエネルギーへの転換自体を経済成長の機会と捉えている点です。GXが求められる背景GXは2020年に日本政府が、カーボンニュートラルを2050年までに達成すると宣言したことをきっかけに注目されるようになりました。 カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きして実質ゼロとなる状態です。カーボンニュートラルと似た言葉に脱炭素がありますが、カーボンニュートラルは温室効果ガス全般を指すのに対し、脱炭素は二酸化炭素に焦点を当てた意味合いで用いられます。 2015年のパリ協定において地球温暖化への対策として、世界平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度未満に抑えることを目標に掲げました。一方で、2020年に文部科学省と気象庁が発表したデータによると、パリ協定の目標が達成できなかった場合、今世紀末までに日本の平均気温は約4.5度上昇するとされています。そのため、国を挙げた取り組みが求められました。GXに向けた政府の取り組み次にGX実現に向けた政府の取り組みを紹介します。GX実現は政府が主導となって進めていく必要があるため、さまざまな取り組みが行われています。それぞれ順番に見ていきましょう。経済産業省によるGXリーグの創立GXリーグとは、GXに向けた取り組みを行い持続可能な成長を目指す企業群と官公庁、大学が一体となって、GX実現のために共同する場です。2022年に経済産業省が「GXリーグ基本構想」を発表したことをきっかけに誕生しました。 GXリーグの目的は、温室効果ガス排出量削減に向けた企業の取り組みが市場に正しく評価される構造を作り出すことです。これによって、企業がリーダーシップを持ってGXに取り組む状態を目指しています。GX関連法の制定2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」に基づき、GXに関連する2つの法律が制定されました。 GX推進法では、二酸化炭素排出に価格をつけるカーボンプライシングなど5つの項目について定めています。カーボンプライシングとは、化石燃料の輸入業者に対して化石燃料賦課金の徴収や、二酸化炭素排出量に応じた負担金の徴収、事業者間で二酸化炭素排出量の取引を行えるように定めることです。 GX脱炭素電源法では、国際エネルギー市場の混乱と電気料金の高騰を受けて、太陽光発電などの再生可能エネルギー普及促進について定めています。GX補助金制度の創設GXを推進するために事業者が必要とする経費を、政府が補助する制度を創設しています。 電気自動車などの導入費用を支援するクリーンエネルギー自動車導入促進補助金や、高い断熱性能を持つ窓へリフォームする際の工事費を補助する住宅の断熱性能向上のための先進的設備導入促進事業等(先進的窓リノベ事業)などです。 また既存のものづくり補助金にも、温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みや製品開発に対して補助金を支給する、グリーン枠が新たに創設されています。GXに企業が取り組むメリットGXに企業が取り組むメリットは、主に次の3点です。 顧客や投資家へのアピールになる 補助金が受けられる エネルギーコストの低減になるそれぞれ詳しく解説します。顧客や投資家へのアピールになる企業がGXを推進すると、顧客や投資家に対するアピールが可能です。環境問題に関心を持ち熱心に取り組んでいる姿勢や、環境負荷が少ない製品開発などを対外的に発表すれば、自社のブランディングに活かせます。 これによって、入社希望者が増えたり、取引先から持たれるイメージが変わったりすることで、金融機関や投資家から資金援助を受けやすくなるでしょう。GX推進やGXリーグへの参加は、企業の環境問題に対するスタンスを示すメリットがあります。補助金が受けられるGXに取り組み、要件を満たせば前章で紹介した補助金が受給できます。補助金の受給により経費の削減が可能です。たとえば、ものづくり補助金のグリーン枠は、温室効果ガスの排出削減に資する取り組みや事業所における毎月の二酸化炭素排出量を把握するなどの要件を満たすと、補助金額を上限に補助対象経費の3分の2が支給されます。 従業員数やエントリー・スタンダード・アドバンスのどの類型から申請するかで異なりますが、補助上限額は最大4,000万円です。GXを推進しながら、賢く補助金を受給すれば経費を圧縮できるメリットがあります。エネルギーコストの低減になるGXに取り組むと、事業の省エネルギー化やクリーンエネルギーの活用が進み、エネルギーコストの削減につながります。特に電気料金の高騰が続く現状において、省エネルギー化は大きなメリットです。太陽光パネルの導入や、空調設備をエネルギー効率の高い新しい機器に買い替えるなどの取り組みでエネルギーコストを削減できます。 2020年に資源エネルギー庁が公表したデータでは、事業用太陽光発電と風力発電に必要なコストは2030年までに少しずつ下がっていくと見込まれています。GXの推進による、コストカット効果も大きなメリットです。国内企業のGX取り組み事例 次に国内企業のGXに関する取り組みを3つ事例形式で紹介します。GXの概要やメリットは理解したけれど、具体的にどのように進めればよいか知りたい方は参考にしてみてください。トヨタ自動車トヨタ自動車は、二酸化炭素削減などの取り組みを長期スパンで取り組む「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表しました。この中で、FCV(燃料電池自動車)の販売などを通じ、2050年に新車平均走行時の二酸化炭素排出量を90%削減することや、同年に工場の二酸化炭素排出量ゼロを目指しています。すでにブラジル工場では、風力・バイオマス・水力発電を利用して、2015年から電力は100%再生可能エネルギー利用を達成しています。清水建設清水建設では、GXに関する取り組みとしてZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の普及を目指しています。ZEBとは、建築計画の工夫や技術によってエネルギー消費量を小さくし、太陽光発電などを採用してエネルギー自給を増やすことで、トータルのエネルギー消費量を実質ゼロにした建築物です。清水建設は2025年度に受注する建築物のうち、ZEBが占める割合を50%以上にできるよう取り組みを行っています。ソニーソニーでは、2050年までに環境負荷ゼロを目指す取り組みを「Road to Zero」として打ち出しています。具体的には、2030年までに自社の電力を100%再生可能エネルギー由来のものに切り替えるとしています。また、調達先に対しても再生可能エネルギーを利用するノウハウを伝え、同年までに再生可能エネルギー由来の電力利用100%を目指すよう要請中です。すでにプロジェクトチームを作って調達先企業の工場に立ち入り、省エネ活動の診断と改善点の指摘も行っています。 まとめ今回はGXについて解説しました。GXは2050年までにカーボンニュートラルを目指す日本にとって重要な取り組みです。そのため、「新しい資本主義」において重点投資分野に位置付けられるなど、経済産業省をはじめ政府主導の政策が次々に始まっています。 また、GXは政府だけが取り組むものではなく、企業の取り組みも大切です。中でも産業構造の効率化・省力化に大きく寄与するDXは、GXを進める上で欠かせません。 GXは今後も目が離せない大きなトレンドであるため、引き続き当コラムでも取り上げていきます。