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サポート終了と統一ルールの欠如で顕在化したリスク
株式会社桐井製作所(以下、桐井製作所)は、内装を中心とした建築資材の製造・販売において長年にわたり業界をリードしてきた企業です。また、鋼製下地材の耐震化にもいち早く取り組んできており、同分野の全国シェアは約40%、これは耐震天井メーカーとしては国内トップを占めます。
桐井製作所では長年にわたりオンプレミスのデータセンターで基幹システムを運用してきたものの、システムのサポート終了が迫るとともに、見積・受発注・納品管理を担う約20のサブシステムも老朽化が進んでいました。
それらシステムのクラウド(AWS)環境への移行を検討する中で、より根深い問題が浮かび上がりました。複数の外部ベンダーによるクラウド環境の構築が、統一したルールのないまま進行していました。
コーポレート本部 デジタル戦略部長 システム企画部長 CTOの徳吉由紀夫氏は「認証・認可の設計や権限設定が整理されておらず、ログがどこにあるのかも把握できていなかったので、複数のベンダーが互いのリソースへ干渉可能な状態でした」と語ります。
こうした「共通ルールなき移行」がもたらすリスクを直視し、まずは統制の基盤を整えることの必要性を桐井製作所は感じていました。
株式会社桐井製作所 コーポレート本部 デジタル戦略部長 システム企画部長 CTO 徳吉由紀夫氏
唯一の「ガイドライン提案」が決め手に
移行に際し、まずは複数のSIerへのヒアリングが実施されました。各社の提案はおおむね、基幹システムパッケージ用のインフラ環境をAWS上で構築する、という内容でした。その中でDTSだけが、インフラ環境の構築にとどまらず、全社的なクラウド利用を統制するガイドラインの策定を含む提案を行いました。
デジタル戦略部 デジタルゲートウェイ推進部 チーフ インフラ エキスパートの南英一氏は「DTSが付加価値として提案してきたガイドライン策定は、当社にとって必要でありつつも私たち自身が明文化できていなかった部分だったので、非常に意義のある提案だと感じました」と、当時の印象を振り返ります。
DTSが提案の中心に「ガイドライン策定」を据えた背景には、ヒアリングを通じた課題の深掘りがありました。「全社でクラウドを使いたいが共通基準がない」という声を受け、基幹システム移行の前に、まずルールの策定から着手するという方向性が設定されました。
「DTSはセキュリティ要件の厳格な金融機関の案件を長年手がけてきた実績があり、当社の業務課題から必要となるセキュリティ水準を、提案内容に反映してくれました」と、徳吉氏もDTSの提案力を評価します。
価格面では各社とも差が付きにくい中、「共通基準の整備という課題に正面から向き合った唯一の提案」が経営層の判断を動かし、桐井製作所はDTSをパートナーとして選定しました。
株式会社桐井製作所 デジタル戦略部 デジタルゲートウェイ推進部 チーフ インフラ エキスパート 南 英一氏
遵守要件としてだけでなく、AI活用のガードレールにも活用できるガイドライン
2025年12月のキックオフから週1~2回のペースで打ち合わせを重ね、2026年3月末にクラウド基盤ガイドラインが完成しました。ガバナンス統制や設計・運用の標準化を軸とした本ガイドラインの策定は、円滑に進行しました。「DTSが毎回丁寧に資料を準備してくれ、ディスカッションのポイントに対して推奨案も提示してくれました。私たちの環境をしっかり理解してくれているため、DTSの提案は多くのケースで、そのまま採用できる内容でした」と、南氏は評価します。
ガイドラインが完成したことで、外部ベンダーへの契約上の遵守要件として活用できる「共通言語」が生まれました。
徳吉氏は「『ガイドラインを理解・遵守できないベンダーとは協業しない』という明確な基準を持てるようになりました」と語ります。
さらに、ログの保管場所や権限設計が標準化されたことで、障害発生時の対応速度が向上し、受発注システム障害による失注リスクの低減も現実的に見えてきました。
プロジェクト開始時には想定していなかった副次効果も生まれました。完成したガイドラインをAIコーディングツールのガードレールとして活用したところ、AIエージェントによる誤ったファイル操作や、パスワードの意図しないアップロードを未然に防ぐ効果が実証されたのです。
「このガイドラインを試しにAIに読み込ませたところ、『やってはいけない』ことをAIに守らせることができました。社内のエンジニアが少ない環境でも、AIを安全に展開できる基盤として機能することがわかりました」(徳吉氏)
AIが膨大なコードを生成する時代において、用意したクラウドガイドラインはAIを活用する際のルールを定めるガードレールとしても機能し、桐井製作所にとって想像以上の競争力をもたらす資産となりました。
ガイドラインを横展開し、AI時代の全社基盤へ
ガイドライン完成後、桐井製作所のクラウド移行は具体的な一歩を踏み出しました。オンプレミスのファイルサーバーをBoxへ移行するプロジェクトが進行中であり、基幹システム周辺のサブシステムも順次クラウドに載せていく計画です。今回策定したAWSを前提としたガイドラインの記載は、BoxやSaaS活用の場面にも横展開できる内容が多く含まれており、「ガイドラインという資産」が全社の標準として活用される見通しです。
また、次のステップとしてDTSへの期待も高まっています。「ガイドラインをベースに、次はBCP対策やセキュリティ、そして運用監視の整備へと進めていきたいと考えています。属人化している部分を標準化し、運用プロセス全体の品質を高めていくためにも、引き続きDTSの支援をお願いしたいです」(南氏)
徳吉氏は、より遠い未来を見据えます。「在庫が減れば自動でサプライヤーにAPIで発注する、そうした世界がそう遠くない将来に訪れるでしょう。そのためには、今のシステムをAIと対話できる形に整えておく必要がある。今回のガイドライン策定は、その入口となる取り組みでした」
「ルールなきクラウド」というリスクに向き合い、共通言語としてのガイドラインを整備した桐井製作所。そのガイドラインは、AI活用の安全基盤としても動き始めています。クラウドとAIの活用が前提となる時代に、DTSとの共同作業が残したものは、単なる技術的な仕様書ではなく、会社のデジタル戦略を前進させるための「羅針盤」となるでしょう。
南氏、徳吉氏とDTSプロジェクトメンバー。今後もパートナとして、共に挑戦を続けていく。