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期待される市民開発 事例4選から学ぶメリットと課題点

期待される市民開発 事例4選から学ぶメリットと課題点

近年、「市民開発」に取り組む企業が増えています。IT人材不足という課題への対策としてだけではなく、取り組むことそのものによって得られるメリットが大きいことも、市民開発が広まりつつある理由のひとつです。ここでは市民開発とは何かということから、4つの事例と市民開発のメリット・課題についてお伝えします。

大企業が取り組み始めている「市民開発」とは

大企業が取り組み始めている「市民開発」とは

 

大企業が積極的に取り組み始めている市民開発。まずは、市民開発とは何かについて見ていくことから始めましょう。

市民開発とは

市民開発とは、ITの専門知識がない従業員によるアプリケーションやシステム開発のことです。通常の場合、アプリケーションやシステムの開発・構築には、コンピューターへの指示となるソースコード(プログラミング言語)を用いる必要があります。

 

それに対して市民開発では、視覚的にわかりやすくテンプレート化され、ドラッグ&ドロップなどの直感的な操作で開発できるノーコードまたはローコードツールを使用します。両者の違いは記述するソースコードの量です。

 

ソースコードを用いないものをノーコードツール、最小限のソースコードで開発可能なものをローコードツールと呼びます。ノーコードツールのほうが、ソースコードを用いない分、機能は限定される傾向にあります。

市民開発が注目される理由

市民開発が注目を集めるのには、いくつかの理由があります。

 

  • DX(デジタルトランスフォーメーション)
  • IT人材不足
  • ノーコード/ローコードツールの発展

 

業務や日常生活でデジタルデバイスに触れるのは、もはや当たり前となっています。ネットワーク上で行われる取引や提供されるサービスも増えてきました。そのような状況で、事業を成功・拡大させるためにデジタル化は不可欠です。

 

デジタル化へのニーズが高まる一方で、IT人材不足はますます深刻になっています。経済産業省の調査によると、2030年までにIT人材不足は最大で79万人に達する見込みです。このような状況で注目されているのが市民開発で、特に大企業では、ITをベンダー頼みにしているという課題を解決する手法として期待されています。

 

IT調査・コンサルティングを行うITR社の調査によれば、ノーコード/ローコード開発市場は2019年から2020年に24.3%の伸びを示しました。その後の予測値でも前年度比20%以上で拡大していくと推測され、2023年には1000億円規模になると見込まれています。

 

また、ガートナージャパン社の調査では、エンドユーザーによって開発した(市民開発された)アプリケーションがあるとの回答は62%に上りました。また2024年までに開発されるアプリケーションの65%以上がノーコード/ローコード開発によると予測しています。

市民開発の企業事例4選

日本での市民開発の導入事例も増えつつあります。その中から4社の事例を紹介しましょう。

ニトリ

ニトリは、家具やインテリアの業界大手で、商品企画から製造、物流、販売までを一貫して手がけることで知られています。社内には商品に限らずITも自社で担うという社風があるものの、営業支援システム(SFA)については定着率の低さが課題でした。

 

そこで、社内システムのクラウド化と同時にローコードツールを使って簡単なアプリケーションの開発に挑戦し始めます。Excelで管理していたリフォームの進捗管理をスマートフォンから手軽に入力できるアプリケーションへと刷新したところ、PCを使うことなく入力できることが評判となりました。そこから内製化プロジェクトを立ち上げ、併用期間を経てSFAの置き換えを実現しました。

森田鉄工所

森田鉄工所は、水道用バルブの製造販売および施工をする従業員約160名の中小企業です。100年超の歴史がありますが、国内8拠点の連携強化のため、ペーパーレス化や業務効率化、全社での情報共有などを課題としていました。

 

特筆すべきは、システム開発未経験の女性社員2名が、営業事務の仕事をしながらローコードツールで開発を進めたという点です。受注や契約情報の一元管理を実現し、製品の種類や細かな仕様、納期、納品場所、施工の有無などを担当者がリアルタイムで入力すれば、誰でも必要なときに参照が可能となり、管理や連絡に費やす手間を大幅に削減しました。

ヤマト運輸

ヤマト運輸は業界トップクラスの取扱量を誇る、宅配便の大手企業です。年々増加する集配業務に、限られた拠点とトラック、セールスドライバーで対応しなければならないことが課題でした。勘や経験値ではなく、データに基づく効率的な業務遂行が求められていました。

 

そこで、既に導入していたシステムをリアルタイムで情報共有できるようにカスタマイズしました。データ分析担当者や問い合わせの受付者、案件を引きついだ担当者など、複数の担当者が各々の情報や知見を持ち寄り、常に全員が最新情報を確認できるようになったことで連携が強化されました。

 

システムがノーコード/ローコード開発に対応しているため、きめ細やかなカスタマイズが可能となり、よりスピーディーな対応を実現するため、今後も改良を重ねていくとしています。

神戸市

兵庫県神戸市は、コロナ禍による最初の緊急事態宣言が発出された後、1日約1000件もの問い合わせ対応に追われていました。簡易的な対応が6~7割を占める状況で、本当に保健師などが対応する必要のあるものを精査しなければなりませんでした。

 

そこで、職員によるWEBアプリケーションのローコード開発に着手します。約1か月半後には、新型コロナの健康相談チャットボットをリリースしました。その後も次々とニーズに応じたサービスを約1週間という期間で素早く開発することに成功しました。

市民開発のメリットと課題点

市民開発のメリットと課題点

 

最後に市民開発のメリットと課題点を確認しておきましょう。

市民開発のメリット

  • ITの専門知識がなくても開発できる
  • 開発コスト・外注費用の圧縮
  • デジタルの民主化

 

事例で触れたように、ITやプログラミングについての専門知識がなくても、ノーコード/ローコードツールを用いて業務に必要なアプリケーションやシステムを自社で開発できるのは大きな魅力です。

 

開発や運用管理のコストを圧縮するだけではなく、社内の人材活用・戦力アップという側面も見逃せません。ITは専門家に任せきりで、デジタルについては門外漢というスタンスの従業員を積極的に巻き込むことで、DX推進やデジタルの民主化にも役立つでしょう。

市民開発における課題

  • 全システムとの連携やIT部門との役割分担
  • セキュリティ対応
  • ブラックボックス化、属人化

 

ITリソース不足を補う有効な手段である一方で、専門知識がない点に対して懸念があるのも事実です。市民開発されたアプリケーションやシステムが乱立して、全社的な統制が取れなくなってはいけません。

 

問い合わせ対応など、市民開発者とIT部門との役割分担や開発時の申請・承認フローなどを明確にしておきましょう。開発されたアプリケーションなどがセキュリティ面で問題ないか、ほかの誰も対応できずブラックボックス化・属人化してないかを確認することも大切です。

市民開発の環境を整え、デジタル戦力の強化を

市民開発は、専門外の従業員がノーコード/ローコードツールを用いてアプリケーションやシステムを開発する手法です。IT人材不足という目下の課題に対し、社内の人材活用やデジタル戦力アップを通じて、企業にとってポジティブな結果をもたらす可能性が高いといえます。開発部門周辺の人材確保に不安を抱える企業は、市民開発の環境整備を検討してみてはいかがでしょう。

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